歳末の街角でサンタクロースに差し出された紙切れ。バーゲンのチラシかと思ったら、そうではなかった。

 それはいわゆるピンクチラシだった。「歳末大放出」という見出しが躍っている。何が大放出だというのか。むしろ放出するのはこちら側……?しかし、チラシを私に差し出したサンタクロースはひどく疲れた顔をしていた。

 数歩進んだところで道端のゴミ箱に丸めたチラシを放り込み、何気なく振り返った。そこではサンタクロースが黙々と道行く人にチラシを手渡し続けている。寡黙である。存在を無視して通り過ぎる人間、嬉しそうな顔をしてチラシを受け取ったのに、内容を確認した親にあわててとりあげられてがっかりする子供。身を寄せ合いながら歩くカップルに手渡したチラシを嘲笑されても、サンタクロースは黙々と、通り過ぎる人すべてにチラシを手渡している。

 サンタクロースは平等だった。等しく世界中の子供にプレゼントを届ける。その存在において平等であることを義務付けられた人間である。一年間、トナカイを養いながらイベントの起こるその日までじっと待ち続ける。そして決行日には、世界中の子供にプレゼントを届けるのである。すべての子供にプレゼントを配り終えるためにはどのようなスピードで世界を駆け抜けないといけないか、今まで幾星の議論が繰り返されたことか。年齢は髭に覆われた顔からは判別がつかない。おそらく中年以上であろう。チラシを手渡し続けるサンタクロースの作業スピードと、街行く人通りの量は均衡しているようであった。

 年季の入った生活用具を積み込み、きっちりとバンドで固定したキャリーバックを牽く人にチラシを手渡した際、ふとサンタクロースがこちらをみた。人の流れで立ち止まっている私に不振を覚えたのか。一寸の間視線が交差する。すぐにサンタクロースは自らの本務に復帰した。そのタイムラグは致命的であった。サンタクロースのすぐ目の前を、仕事帰りのOLがヒールの音を高らかに通り過ぎていった。サンタクロースが視線を元に戻したときにはOLはすでにサンタクロースの目前にあった。つまりそこから反射的に手を出したとしてもOLの目前にチラシを出すことは叶わず、無理やりに手を差し出せば体にヒットしてしまう状況であった。ピクリとサンタクロースの手が挙がりかけるのを私は見た。しかしその意思はOLには伝わらなかった。チラシを渡される人が自分の意思で受け取ることを拒否して通り過ぎることと、チラシを渡そうとする意思を伝えずにそのまま通過させてしまうのとでは、意味合いが違った。それは、すべての子供にプレゼントを届ける存在であるサンタクロースの存在原理を否定する行いであった。

 思わずか知らずか、頭を挙げたサンタクロースと再び目が合う。そこには、後悔の念も心外の念も見て取れず、ただ諦めの混ざった無感動な視線があるだけだった。

 私は視界からサンタクロースを消し去り目的地へ向かって歩みを進めた。私が注視を始めた時点で平等などということは不可能であった。

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